幻想文学としての科学
今月のニュートンの特集は「時間」。
ループ量子重力理論で有名なスモーリン博士のインタビューが載っていたので、今回は即買い。
Newton (ニュートン) 2009年 05月号 [雑誌]
- 出版社/メーカー: ニュートンプレス
- 発売日: 2009/03/26
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1929年にハッブルが宇宙の膨張を発見して以来、
時間のはじまりと言えばビックバンで、
昔よっく
ビックバンの前はどうなってたの?
無から有が生まれることはどうして可能だったの?
なんて親や先生に食ってかかってた気がするけど、
こういう時期ってみんな一度はあるんだろうな。笑
最近は、
マルチバースに、自己創造モデル、ビックバウンスと、
色んな仮説が登場してきてて、
物理学や宇宙論がかなり面白いことになっている。
で、ループ量子重力理論のグループは、この5〜6年で、
ビックバンというのが前の世代の宇宙が収縮した後のビックバウンス(はね返り)だったという予測の立証を、かなりやり込んでいるらしい。
なんというか、
宇宙モデルとしては、親宇宙や孫宇宙、並行宇宙が飛び出す
マルチバースの方が、想像力がかき立てられて刺激的なんだけど、
提示しているモデルの全体像はともかく、
ループ量子重力理論も、その発想自体はやはり抜群に面白い。
例えば、
空間には最小の単位である原子が存在するが、
ループ量子重力理論の特徴は、
時間にも原子が、つまり最小の長さの単位が設定可能と考える点にある。
つまり、
タモリのサングラスは一見、表面はなめらかに見えるけど、
十分に拡大すれば、原子が格子状の構造で成り立っていて、
実はスカスカだったりするところから、
空間が離散的なら、時間も離散的なはずと考え、
時間を「飛び飛び」で「不連続」なものとして捉える。
そして彼らはこれを分かりやすくモデルを使って、実にきれい説明する。
(ループ量子重力理論における時間経過の記述方法は「スピンフォーム・モデル」というらしいがここでは割愛)
ところで、不連続な時間といえば、
宮沢賢治の有機交流電燈が思い出されるけど、
あれはライプニッツの視点とも近いものを感じる。
わたくしといふ現象は仮定された有機交流電燈のひとつの青い照明です
(あらゆる透明な幽霊の複合体)
風景やみんなといっしょにせはしくせはしく明滅しながら・・・
ふつう我々は、
時空は全方位的な連続体であると素朴に信じ込んでいるけれど、
考えてみれば、
連続性などというものはユークリッド以来の幻想に過ぎないし、
ニュートンの「絶対時間」を代表とする近代科学の基本公理でさえ、
ここにきて空想の産物に他ならないという可能性が高まってきている。
結局、ボルヘスがどこかで言っていたように、
「科学とは幻想文学のもっとも進化したバリエーション」なのかも知れない。
だとすれば、
どの物語を選ぶのかはあくまで読者が決めればいいし、
その読書体験から何を引きだすかは、読者に委ねられているはず。
占いがそうであるように、科学もそれ自体が信仰の対象になってしまっては、
その価値も半減してしまうのだ。