占星術のメンタルモデル

数年前、大学生の頃に読んだユングの著書の中で、
感銘を受けた言葉があった。


「心理学の法則では、内的環境が意識されないと、外的にはそれが運命として生ずる。
 つまり、個人が未分化で、自分の内的矛盾を意識しないでいると、
 世界は必ず葛藤という形で現れ、真っ二つに裂けて対立する。」


この心理学の法則自体はそんなに目新しいものではないけれど、
今の自分にとっての占星術的な天体の運動原理でもあり、
強くしたたかに生きぬくためのメンタルモデルとしてかなり使えると思う。



占星術では、太陽系を構成している公転周期の異なった10個の天体を、
人間の内側に広がるコスモス(秩序)と対応しているものとして扱う。


例えば月は、28日で一周し、出発点に戻ってくる。
当然このような短いスパンの意識単位では、人の一生を左右するような影響力は持ち得ないが、
日常的な生活の細かい出来事に関わる天体として、毎日の生活リズムを刻む役割を果たしている。


火星は2年、木星は12年、土星は29年、天王星は84年、そして冥王星は249年の周期で公転しており、
それぞれのタイムスパンに応じた役割を、人間の意識生活において担っている。


しかし、これらすべての天体の役割を十分に作用させるのは並大抵のことではなく、
通常様々なこと(その多くがほんのささいな判断ミスの積み重ね)が原因となって、
天体に象徴される意識はその大部分が未分化の状態のまま放置されてしまう。


中でも、土星外3惑星のような公転のタイムスパンの長い天体は、
彼らに与えられた役割や台本を理解するだけでも容易なことではない。


たとえば冥王星の公転周期は約250年。

現代の高度でいびつな医療技術であらゆる延命術を施しても、その長さには届かないだろう。
平均寿命で計算しても、人生3〜4回分くらい生きて初めて一周する。


つまり、まともに読もうとしても到底読める代物じゃないんだ、この台本は!


それを意識の中に無理やりつっこもうとすれば、
日常生活が一気に崩壊の危機に瀕するのも当然の成り行きと言える。


こんな感じで、土星外3惑星のような莫大な情報量をもった天体とアクセスするのは、
意識の側からすれば常に危険を伴っており、その点でこれらの天体の影響が避けられ、
無視されることもあるいみ必要なところもあって、

結果的に、「意識化されない内的環境が、外的運命として訪れる」
という事態は、常に作り出され続ける「宿命」にあることになる。


また、
内的な環境(天体)が先天的後天的問わず、その存在を無視され、
本来の品格を著しく傷付けられてしまっているような場合、
人間はその天体が担っている役割を他の天体で代用しようとしたり、
最初から世界に存在しなかったかのように扱う。

このような場合も、天体の逆襲はかなり破壊的なものとなり、
外的に訪れる葛藤が「宿命」化する。


こうした理由により、通常10天体すべてを十全に活用している人はほぼ皆無に近く、
「ほんの2、3個の、使い心地のいい天体しか使わずに一生を終える人が実に多い」
というある占星術師の所感には、無視できない説得力を感じる。


繰り返し述べるが、このような様々な理由により未分化な状態のまま放置された天体は、
必ず外的環境の姿を借りて、意識のもとにやってくるのである。
そして未分化でコントロールされていない自然が、しばしば人間に対して
破壊的な災害をもたらすのと同様に、未分化な天体も個人の人生に数々の障害をもたらす原因となる。


そして往々にして、そのような障害を前に人間は呆然とし、しばらくしてからうろたえ、
悩み、それが落ち着いてはじめて、対処法を模索し始める。


もし占星術的メンタルモデルに有用性が見出だせるとすれば、まさにココ。

つまり占星術とは、天体という象徴を通して、
人間が使いこなしうる様々な役割の手触りやヒントを与えることであり、

ホロスコープを読む行為とは、
内的環境と外的運命のほつれを正すために行われるものだろう。


大体ほつれているんだって目でみれば、人間を見守る視線もやさしくなる。